娘が出来たらピアノを習わせることに憧れていた母は、
娘には音楽的才能もやる気も元気もないのに
ピアノ教室に通うことを命じ、
毎週水曜日、バスの回数券を2枚もらい
小学生の私は北千住までピアノを習いに行った。
それでも赤のバイエルの頃はよかった。
あまり練習をしなくてもそれなりに弾けたから。
しかし、黄色いバイエルが終わる頃になると
練習嫌いの私はすっかり落ちこぼれになった。
私が習っていた先生は厳しい先生で間違えると容赦なく手を叩く。
・・・行きたくない。
だんだん水曜日になるとお腹が痛くなるようになった。
そして、ある日。
その日はほとんど練習をしてなくて課題曲がまったく弾けず
涙が出るほど行きたくなかった。
北千住駅でバスを降りた私の足は少しためらった後、
ピアノ教室ではなくイトーヨーカドーの屋上に向かった。
そこはちゃちな屋上遊園地になっていて100円玉を入れて動く車だの動物だの
ピンボールだのそしてなぜか釣堀まであった。
私は10円で出来るゲームをし、
わたあめを作る機械で手をベタベタにしながらわたあめを割り箸にまきつけ、
釣堀の魚の生臭さを嗅ぎながらわたあめを食べた。
生まれて初めてのエスケープだった。
ピアノ教室の先生が家に電話をかけてるんだろうなあ、とか
帰ったら怒られるんだろうなあ、とか
お腹が痛くてヨーカドーのトイレにいたって言おう、とか
ブルーになってあれこれ考えてるその裏で
あーいい天気だなあ、と
なんかうまく言えないけどふんわりした気持ちになった。※1
実家を売り払ってしまった今、
私にとってのイトーヨーカドー千住店(栄えあるイトーヨーカドー1号店)は
峠の我が家のようなものである。
※1 のちにこんな気持ちをドンピシャに表現して歌っていた
RCの「トランジスタ・ラジオ」に感銘を受ける。※2
※2 つか、はてなダイアリーみたいに※印機能をつけてほしい。
この陳腐な真似に失笑しているのは他の誰でもないこの私だ。
<追記>
最初、これ全部やきそばさんのところのコメント欄に書こうとしていた。
書込ボタンを押す既の所で正気に戻り思い止まった。
危機一髪。(日テレアナは危機一パンツ)