2008年11月。
今年も街中にクリスマスソングが流れ始めた。
あいかわらずの山下達郎とワム。
私はマライア・キャリーのほうが好きだな。だって達郎とワムは胸が痛むもの。
〜きっと君は来ないひとりきりのクリスマスイブ
〜Last Christmas I gave you my heart
But the very next day you gave it away
(あれは去年のクリスマス、あたいはあんたに惚れちゃって身も心も捧げたっけ
でもあんたは次の日あっさりとあたいのことを捨ててったんだよね、あはははは)
こんな歌、毎年流さないでほしいなー。胸きゅんだよ。
いや、最近胸がきゅんとしたら恋だと思うより病院行けって言われる年になっちゃったんだけどね。
でも、このきゅんは病気じゃなくってやっぱり彼のせいだと思う。
そう、もうあれから3年経つんだなあ・・・。
私は私の手をぎゅうっと握っている雅を見つめる。
3年前の夏、私の誕生日の1日前に生まれた雅はすくすくと育っている。
少ししゃくれたあごがとってもチャーミングな女の子だ。
彼もこの子の誕生をとっても喜んでいた。
「ちょううれSHIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!111111236q」
と、とっても喜んでくれていたのだが。
この子が生まれてすぐの2005年11月18日。彼は失踪した。
原因はわからない。
いつもと変わらない様子だったような気もするし少しだけ遠い目をしていたような気もする。
ただ、前の晩、誰かと電話で話していた時に重い声で「切手屋か・・・」とつぶやいていたことだけが思い出される。
ふいに「すいません、大橋未歩さんですか?」と声を掛けられる。
「あ、いいえ、違います」
「あ、すいません。よく似ていらっしゃったから。ごめんなさい」
大学生というよりは浪人生といった感じのどこか疲れが見えるその男性はペコリと頭を下げて去っていった。
彼と出会う前は安めぐみというタレントに似ていると言われていたのだが、彼と出会う少し前にリフトアップと目と鼻と胸を少しいじったら大橋未歩という女子アナにそっくりになったようでとてもよく間違えられる。
そう、彼との出会いも歩いていて肩がぶつかって「ごめんなさい」と謝ったら「大橋未歩さんですか?」と声を掛けられたのがきっかけだった。
そんなことを思い出したらまた胸がきゅんとした。
「ままぁー、ことしのくりしゅましゅもぴゅうのおにいちゃんからおてまみくるぅ?」
雅が私の手を引いて聞いてくる。つぶらな瞳が本当に愛らしい。
彼がいなくなった日、彼のパソコンの画面には“Who killed Cock Robin? ”と残されていた。
彼はもう死んでいるんじゃないか?と噂する人も多い。
けれど私は信じている。彼はきっと生きている。
なぜなら毎年クリスマスになると雅宛にクリスマスカードが届くから。
差出人の名前は書いてないが
『メリークリスマス!!!世界中がぴゅっぴゅっぴゅー!!!!112』
というLOVE&PEACEなメッセージはきっと彼からのものに違いない。
「きっと今年もみやびちゃんにお手紙書いてくれるわよ。
ぴゅうのおにいさんはね、いつも遠くからみやびちゃんのことを見守ってくれているの。
そしていつか必ずみやびちゃんに会いにきてくれるからね。
ママと二人で待ってようね」
気がつけばBGMがジョンとヨーコの『Happy Xmas』に変わっていた。
<あとがき>
最後のBGMはプッチモニの『ぴったりしたいX’mas!』のほうがよかったかもしれんね。